公認会計士 西山 太郎 
 東日本大震災により被害を受けた方々などを対象として、国税に関して様々な特例措置などが設けられています。
 本稿では、災害に関する法人の支出する費用等、法人税の取扱いについてご説明します。

(1)災害により滅失・損壊した資産等
 法人の有する商品、店舗、事務所等の資産が災害により被害を受けた場合に、その被災に伴い次のような損失又は費用が生じたときには、その損失又は費用の額は損金の額に算入されます。
@ 商品や原材料等の棚卸資産、店舗や事務所等の固定資産などの資産が災害により滅失又は損壊した場合の損失の額
A 損壊した資産の取壊し又は除去のための費用の額
B 土砂その他の障害物の除去のための費用の額

(2)資産の評価損
 法人の有する棚卸資産、固定資産又は一定の繰延資産につき災害による著しい損傷が生じたことにより、その時価が帳簿価額を下回ることとなった場合には、帳簿価額と時価との差額につき、損金経理をすることにより損金の額に算入することができます。

(3)復旧のために支出する費用
 法人が、災害により被害を受けた固定資産(被災資産)について支出する次のような費用に係る資本的支出と修繕費の区分については、次のとおりとなります。
@ 被災資産についてその原状を回復するための費用は、修繕費となります。
A 被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等のために支出する費用について、修繕費とする経理をしているときはこの処理が認められます。
B 被災資産について支出する費用(@又はAに該当するものを除きます)の額のうち、資本的支出か修繕費か明らかでないものがある場合、その金額の30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときはこの処理が認められます。
(注) 法人が災害により被害を受けた製造設備に対して支出する修繕費用等について、企業会計上、適正な原価計算に基づいて原価外処理(費用処理)をしているときは、税務上もこの処理が認められます。

(4)災害による損失金の繰越
 法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額のうち、棚卸資産、固定資産等災害により生じた損失に係るもの(災害損失欠損金額)がある場合には、その事業年度が青色申告書を提出しなかった事業年度であっても、その災害損失欠損金額に相当する金額は、その各事業年度において損金の額に算入されます。

(5)従業員等に支給する災害見舞金品
 法人が、災害により被害を受けた従業員等又はその親族等に対して一定の基準に従って支給する災害見舞金品は、福利厚生費として損金の額に算入されます。
 また、法人が自己の従業員等と同等の事情にある専属下請先の従業員等又はその親族等に対して一定の基準に従って支給する災害見舞金品についても、同様に損金の額に算入されます。

(6)災害見舞金に充てるために同業団体等へ拠出する分担金等
 法人が 、所属する同業団体等の構成員の有する事業用資産について災害により損失が生じた場合に、その損失の補てんを目的とする構成員相互の扶助等に係る規約等に基づき合理的な基準に従って、同業団体等から賦課され拠出する分担金等は、その支出する事業年度の損金の額に算入されます。

(7)取引先に対する災害見舞金等
 法人が、被災前の取引関係の維持・回復を目的として、取引先の復旧過程においてその取引先に対して行った災害見舞金の支出、事業用資産の供与等のために要した費用は、交際費等に該当しないものとして損金の額に算入されます。
 また、国税庁HPでは、この度の東日本大震災の発生に伴い、災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いについて、よくある質問として下記のようにまとめていますので参考にしてください。
 Q2以降の回答につきましては、国税庁HP「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」をご覧ください。下記のQuestion番号は、国税庁FAQのQuestion番号と同一になっています。

1 申告期限の延長
  1. 1.
     地域指定された地域に納税地がある法人が、災害により、確定申告書を申告期限までに提出することができない場合にはどうしたらよいでしょうか。
     災害などの理由により、国税に関する申告、納付などをその期限までにすることができないと認める場合には、所轄の税務署長などは、次により、その理由のやんだ日から2か月以内に限り、申告、納付などの期限を延長することができることとされています。(通法11)
    イ. 地域指定(通令3@) 災害などの理由により、都道府県の全部又は一部にわたり期限までに申告、納付などを行うことができないと認める場合には、国税庁長官は地域及び期日を指定してその期限を延長することとされています。
    ロ. 個別指定(通令3A) 地域指定がされている場合を除き、所轄の税務署長は納税者の申請により、期日を指定して申告、納付などの期限を延長することとされています。
     したがって、上記イの地域指定があった場合、指定された地域に納税地がある法人で、法定申告期限までに確定申告書を提出することができない法人にあっては、指定された期日までに申告すればよいことになります。
     地域指定による申告期限の延長があった場合において、さらに、災害その他やむを得ない理由により確定申告書をその延長された期限までに提出することができないと認められるときは、所轄の税務署長は納税者の申請により、その理由のやんだ日から2か月以内に限り、期日を指定して申告、納付などの期限を再延長することができることとされています。(通法11、通令3A)
    (注) 東日本大震災における地域指定による期限延長については、平成23年3月15日付で青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県を指定して行われており、その期限が平成23年3月11日以降に到来する申告、納付などについて、その期限を別途国税庁告示で定める期日まで延長することとされています。(平成23年国税庁告示第8号)
  2. 2.
     地域指定された地域以外の地域に納税地がある法人が、災害により、確定申告書を申告期限までに提出することができない場合にはどうしたらよいでしょうか。

2 災害関係費用全般
3 資産の評価損
4 復旧のために支出する費用
  1. 5.
     二次災害を回避するなどの目的で、被災した建物について耐震性を高めるための補強工事を行った場合に、その工事に要した費用は、税務上、損金の額に算入されるのでしょうか。
  2. 6.
     被災した鉄道線路、電線路、ガス管、水道管、コンベアなどの一部を取り替えた場合には、修繕費として処理してよろしいですか。
  3. 7.
     損壊した護岸を復旧するために要した費用は、修繕費として処理してよろしいですか。今回の被害の大きさにかんがみ、損壊部分も含めて拡張工事を行うことを検討していますが、損壊した護岸の復旧と拡張工事を一度の工事で行う場合には、どのように取り扱われますか。
  4. 8.
     被災資産以外の資産について耐震性を高めるための工事を行った場合に、その工事に要した費用は修繕費として処理してよろしいですか。
  5. 9.
     被災した建物等の修繕に代えて新規に資産を取得した場合、その取得費用を修繕費とすることは認められますか。
  6. 10.
     被災した工場を取り壊してその敷地にパイルの打ち込みをし、補強した場合の費用は、修繕費として処理してよろしいですか。
  7. 11.
     地震による地盤沈下又は地割れにより地盛りを行った場合、その費用は損金の額に算入できますか。
  8. 12.
     法人が、災害により被害を受けた製造設備に係る修繕費用や被災したことによる操業休止中に支払った人件費については、原価外処理(費用処理)が認められるのでしょうか。

5 従業員等に支給する災害見舞金品
6 災害見舞金に充てるために同業団体等へ拠出する分担金等
7 取引先に対する災害見舞金等
(8)取引先に対する売掛金等の免除等
 法人が、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として売掛金、貸付金等の債権を免除する場合には、その免除することによる損失は寄附金又は交際費等以外の費用として損金の額に算入されます。
 また、既契約のリース料、貸付利息、割賦代金の減免を行う場合及び災害発生後の取引につき従前の取引条件を変更する場合も同様に取り扱われます。

(9)取引先に対する低利又は無利息による融資
 法人が、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として低利又は無利息による融資を行った場合における通常収受すべき利息と実際に収受している利息との差額は、寄附金に該当しないものとされます。

(10)自社製品等の被災者に対する提供
 法人が、不特定又は多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品等の提供に要する費用は、寄附金又は交際費等に該当しないもの(広告宣伝費に準ずるもの)として損金の額に算入されます。
 また、国税庁HPでは、この度の東日本大震災の発生に伴い、災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いについて、よくある質問として下記のようにまとめていますので、参考にしてください。
 Q22以降の回答につきましては、国税庁HP「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」をご覧ください。下記のQuestion番号は、国税庁FAQのQuestion番号と同一になっております。

8 取引先に対する売掛金等の免除等
  1. 19.
     当社では、商社を通じた取引により商品を納入している得意先が災害により被害を受けました。この得意先とは、当社が自ら価格交渉を行うなど実質的な取引関係にあることから、その復旧支援を目的として、この得意先に係る売掛金の一部について、商社を通じて免除することを検討しています。
     ところで、法人が、災害により被害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として売掛金等の全部又は一部を免除した場合には、その売掛金等を免除したことによる損失は、損金の額に算入されるとのことですが、この場合の取引先には、当社の得意先のように直接取引を行っていない者も含まれるのでしょうか。
     お尋ねの「取引先」には、得意先、仕入先、下請工場、特約店、代理店等のように直接取引を行うもののほか、商社等を通じた取引であっても自ら価格交渉等を行っている場合の商品納入先など、実質的な取引関係にあると認められる者も含まれます。(法基通9‐4‐6の2(注))
  2. 20.
     被災した法人と取引をしているのは当社も含めて10社程度ですが、当社だけが売掛債権を免除しても、寄附金又は交際費等以外の費用として取り扱われるのでしょうか。
     法人が売掛金等の債権を免除した場合に、その免除したことによる損失が寄附金や交際費等以外の費用として取り扱われるのは、その免除が取引先の復旧過程においてその復旧支援を目的として行われるものであるからです。(法基通9‐4‐6の2)
     この場合の復旧支援は、それを行うかどうかは個々の企業の判断によらざるを得ないのであり、その被災した法人の取引先のすべてが復旧支援を行うことが前提とされているわけではありません。
     したがって、被災した法人に対する復旧支援のための売掛債権の免除が一部の法人のみによってなされていたとしても、その免除が取引先の復旧過程において復旧支援を目的として行われるものについては、寄附金又は交際費等以外の費用として損金の額に算入されます。
  3. 21.
     売掛債権の免除は、いつまでに行ったものが損金として認められるのでしょうか。
     法人が売掛金等の債権を免除した場合に、その免除をしたことによる損失が寄附金や交際費等以外の費用として取り扱われるのは、その免除が取引先の復旧過程においてその復旧支援を目的として行われるものであるからです。(法基通9‐4‐6の2)
     したがって、売掛債権の免除は、災害発生後相当の期間内、例えば、店舗等の損壊によりやむなく仮店舗により営業を行っている場合のように、被災した取引先が通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間内に行うことが前提となります。

9 取引先に対する低利又は無利息による融資
10 自社製品等の被災者に対する提供
11 法人税に関するその他の取扱い
12 消費税の取扱い
13 源泉所得税の取扱い
  1. 33.
     当社では、被災した従業員や役員に対し、住宅や家財の損害の程度に応じて見舞金を支給することにしました。この見舞金については、給与として源泉徴収が必要でしょうか。
  2. 34.
     当社では、慶弔見舞金規程を改めて、従業員や役員の父母等の家屋が災害により被害を受けた場合、従業員や役員に対し一定の見舞金を支給することにしました。この見舞金については、給与として源泉徴収が必要でしょうか。
  3. 35.
     当社では、被災した従業員に対して、当面の生活に必要な資金を無利息で貸与することにしました。この場合、貸付期間に応ずる利子相当額の経済的利益については、給与として源泉徴収が必要でしょうか。
  4. 36.
     当社では、自宅が災害により居住不能になった従業員や役員に対して、新たな住居に入居できるまで又は自宅の修繕が完了して居住可能となるまでの間、無償で社宅を貸与することにしました。この場合、無償で社宅を貸与することによる経済的利益については、給与として源泉徴収が必要でしょうか。
  5. 37.
     当社では、従業員が災害や計画停電により通勤に利用する鉄道が利用できないため、タクシーなど他の交通手段を利用した場合には、他の交通手段に係る交通費を支給することにしています。この場合において、その支給する交通費は給与として源泉徴収が必要でしょうか。

こちらの情報は、平成23年8月11日現在の国税庁のホームページを基に作成しております。

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